ソフビの成型とは?スラッシュ成型と費用、量産を原型師が解説
ヨシダケンジ キャラクターデザイナー / 原型師
オリジナルキャラクター『ハムラ』と『ハムオ』でアートトイデビュー。ワンダーフェスティバル表紙にも起用され、原型師として「宇宙兄弟(講談社)」や「少年アシベ(双葉社)」など数々のソフビ/アートトイも担当。
更新日:2026.09.07
これはソフビフィギュアの作り方|原型制作の依頼は相談してねの補足記事です
ソフビができるまでの全工程・費用・工場の選び方は本編にまとめています。ここでは最後の工程である「成型(量産)」だけを掘り下げます。
こんにちは。
キャラクターデザイナー / 造形師 / 原型師をしているヨシダケンジ(吉田健児)です。
自身の作品制作と並行し、原型師としてメーカー案件や個人作家さんのソフビ / アートトイ原型など年間30体ほど担当しています。
ソフビが完成するまでには、
原型制作
↓
ワックス転換
↓
金型製作
↓
成型(量産)
という工程があります。
今回は最後の「成型」の話です。いわゆるソフビを量産するって工程ですね。
金型までの設備投資が終わりましたら、いよいよその金型を使ってソフビを量産するわけです。
ここまで来たら簡単そうですよね。
金型に塩ビの材料を入れて、固めて、スポッと取り出す。
まあ、ものすごく単純化すれば本当にそれだけです。
実はソフビを作る上で一番最後に立ちはだかるのが、この成型です。
というか、私のような原型師が最初からずっと気にしている「ソフビの制約」というのは、突き詰めればほとんどが、
「最後にちゃんと成型(量産)できるのか?」
という話なんですね。ソフビの制約に引っかかっていればマジで成型できません。
言ってみれば、どんな形でも造形はできます。
ワックス転換もできます。
金型も作れます。
でも肝心の成型ができなかったら、全てがパー。
非常に重要な工程なのです。
なので今回は、ソフビがどうやって「製品」として量産されるのかを書いてみましょう。
オリジナルソフビ『ハムラ』『ハムオ』。 自身でもキャラクターデザイン・原型制作からソフビ化まで行い、作品を展開。2026年デビュー。大きくなり過ぎたハムスターと飼い主の少年、絵本展開もします。 ハムラとハムオの作品を見る →
- 一般的な国内ソフビでは「スラッシュ成型」が中心。
- 金型の内側だけを固め、余分な材料を流し出すので中が空洞になる。
- 最後は温かく柔らかいソフビを職人が金型から引っこ抜く。
- 原型の形状が悪いと、ワックス・金型まで完成していても最後に成型できない。
- 成型費は工場による差が大きく、作れば作るほど差額が積み重なる。
ソフビは「スラッシュ成型」で作る
一般的な日本のソフビ人形やアートトイで使われる代表的な製法が、スラッシュ成型です。
国内の一般的なソフビでは、この昔ながらのスラッシュ成型が今も中心です。
※大型品や特殊な製品ではローテーション成型など別の方法が使われることもありますが、ここでは一般的なソフビのスラッシュ成型について説明します。
材料は液体状の塩化ビニール。ドロッとした液体です。
これを、銅の金型の中へ流し込みます。
大まかな流れはこんな感じ。
- 液状PVCを金型へ入れる 塩ビペースト、塩ビゾルなどと呼ばれる液体状の材料を金型へ入れます。
- 加熱して内側に皮膜を作る 金型を加熱すると、金型に触れている材料から固まり始め、内側に必要な厚みの皮膜ができていきます。
- 余分な材料を排出して中空化する まだ固まっていない中心部分の材料を金型から排出します。内側の皮膜だけが残るため、パーツは中空になります。
- 冷却後、職人が型から取り出す 再加熱で皮膜を仕上げ、水槽などで冷却します。まだ温かく柔らかい状態で、職人さんが湯口などをつかんで金型から取り出します。
スマートフォンでは図を横にスクロールできます。タップすると大きな画像で確認できます。
昔ながらのスラッシュ成型では、200℃前後に加熱されたオイル槽を使い、まず金型の内側に数mm程度の膜を作り、余分な材料を排出したあと再加熱して仕上げる方法が使われています。
時間や温度は製品や工場によって調整されます。
通常は工場見学なんてさせてもらえませんが、原型師として工場に仕事を流している立場上、特別に見せてもらったことがあります。
結構グッときますよ。自分の作品が金型から飛び出してくるところ。
見てて面白い作業です。
なんでソフビは中が空洞なの?
ソフビを持ったことがある人なら分かると思いますが、中身は空洞です。
これもスラッシュ成型の仕組みそのもの。
金型いっぱいに材料を流し込んだ後、金型の内側に触れている部分だけを加熱して固めます。
そこで、まだ固まっていない中心部分の材料を外へ流し出す。
結果、
外側だけが固まった、中空のパーツ
ができるわけです。
だから、大きなフィギュアでも比較的軽い。
ソフビが大きなキャラクターを作るのに向いている理由のひとつですね。
中身を全部材料で埋めないので、材料も必要以上に使わない。
よく考えられた製法です。
何十年も基本的な作り方が変わらないのも、ちゃんと理由があるんですよね。
すでにソフビの製法はかなり完成されているのです。
最後は、人間が金型から引っこ抜く
焼き上がったら金型を冷やします。
でも完全にカチカチになるまで冷やすわけではありません。
まだソフビが温かく柔らかい状態で、職人さんが湯口部分などをつかんで、
グイッと力技で金型から引っこ抜きます。
本当にスポンッと引っこ抜きます。これがいわゆる「無理抜き」。
硬い素材なら絶対に抜けないような多少の引っかかりでも、ソフビは柔らかいので、変形しながらスルルンッと抜けてくれます。
ただし、
「柔らかいんだから、どんな形でも抜ける」
というわけではありません。
限度ってものはあります。そして、物理的に無理な形状もさまざまあります。
ここが超重要です。いわゆる「ソフビの制約」ってやつですね。
ソフビの制約とは、結局「成型できるかどうか」です
私が原型制作の記事でずっと、
「これはソフビでは無理」
「ここは少し太くする」
「ここで分割する」
「この形ならギリギリいける」
みたいなことを書いています。
何のためにわざわざそんなことを考えているのか。
全部、最後に成型できる形状にするためです。
ソフビは柔らかいから無理抜きができる。
だがしかし、そんなんじゃ太刀打ちできない形状の方が多い。実はソフビってできないことだらけなんです。
代表的な「成型できない・危ない形状」
- 逆テーパー 逆テーパー部分には、物理的にソフビの材料が入っていかないので成型できない。これは明確にアウト。
- 極端に細い首・手首・足首 腕が細くて手が大きいような形だと、引き抜く時に先端が引っかかります。そのままでは成型できない場合があります。
- 抜けない空間や隙間 一体成型するパーツの中に、材料や金型の都合上成立しない空間を作るのも無理。例えば顔とメガネをそのまま一体のソフビにするような形です。
メガネに限りません。隙間や空間の取り方によっては、そのままでは成型できません。
そんな場合は、別パーツにする。
形状を少し変える。
別の素材を使う。
構造そのものを変える。
希望のデザインを極力保ちながら、別アプローチでソフビの制約に引っかからないように工夫するわけです。
経験値がモノをいうとこですね、まさに。
ソフビは柔らかいので『無理抜き』ができる!と上で書きましたが、なんのことはない、文字通り『無理抜き』ができるだけです。
他はできないことだらけです。
だから必ず、原型を作る段階で、
「これ最後にどうやって抜くんだ?」
と考えてないと商品化ができません。
誇張してないですよ。マジで無理なのです。
ソフビの原型制作が極めて特殊なのはここです。
成型工場によって価格がかなり違う
さて。
ここから依頼する側にかなり重要な話。
成型工場によって、1体あたりの金額が思いっきり違います。
メインの記事にも書いていますが、工場によって1体あたりの価格が倍近く違うことがあります。納期も数ヶ月単位で違います。
- 成型のみ:1体あたり800〜1,600円前後がひとつの目安 ※私が普段扱っているソフビ案件での実務感です。大きさ・重量・パーツ数・使用する塩ビ量などで変わります。
- 工場によって単価差がかなりある ※同じような作品でも、工場選びによって倍近く差が出るケースがあります。
- 彩色・彩色マスク・組立などは別工程 ※ここで書いているのは基本的に「成型」の費用です。
これ、ワックス転換や金型以上に中長期的にはボディーブローのように効いてきます。
ランニングコストそのものですからね。作れば作るほど、どんどんその差額は広がっていく恐ろしい呪いのような工程です。
例えば、
1体あたり500円違うと?
100体作ったら5万円の差。
1,000円違うと?
100体なら10万円の差。。
次の色を100体作る。
また10万円差。
再販する。
また差が出る。
このように、作れば作るほどずっと差が積み重なっていく。
だから成型工場選びって、地味にめちゃくちゃ重要なんです。
私とかは立場上もちろん各工場を網羅的に把握してますから、クライアントにはダントツおすすめの工場を、明確な理由とともに教えてあげています。
知ってるか知らないか、だけで相当変わるのが実態ですね。
Order
どの成型工場が向いているかも案内します
作れば作るほど差が積み重なる部分です。原型制作をご依頼いただいた方には、明確な理由とともにお伝えしています。
金型ができれば、設備投資は終わり
ここはソフビのいいところ。
原型制作。
ワックス転換。
金型製作。
ここまでは初期費用がかかります。
でも、金型が出来上がれば設備投資は終わり。
あとはその金型を使って成型してもらう。
ソフビは小ロット展開とも相性がよく、工場によっては厳しい最低ロットを設けていないところもあります。もちろん契約内容によります。
私が普段案内している先では、「毎回何百体作らなければならない」というような厳しい縛りは基本的にありません。
ただ、いろんな人の話を聞く限り、契約によっては結構な縛りがついてたりするらしい。
縛りがあるとね。。。かなりキツいですよね。
縛りが無ければ、金型完成後は必要な数量を必要な時に追加生産していくことができます。
最初に50体。
売れた。
次は別の色で50体。
半年後にもう一度50体。
みたいなことができる。
ここが、個人作家がソフビを商品として展開しやすい理由のひとつだと思っています。
最初の設備投資はそれなりに高い。
でも金型さえ持っていれば、そこから作品を何年もマイペースに展開できる。
原型師なのに、なぜ成型まで知る必要があるのか
私は成型屋さんではありません。
私の仕事は、
造形 / 原型制作
です。
じゃあ成型なんて知らなくていいじゃん。
とはならないんですね。むしろ逆。
成型を知らずにソフビの原型を作ることはできません。
散々書いてきた通り、ソフビの原型師は特殊です。
だって様々な制約を知っていて、それらをクリアした原型に仕上げないと量産がマジでできませんから。
わかりやすく言えば、あなたが粘土で何かキャラクターを作ったとする。
その原型を持ってどこかの工場を訪ねたとする。
「これ、ソフビにしたいので金型作ってください。」
「….うーん。ちょっと無理ですね。」
となります。こればっかりは仕方ない。
しっかりとスラッシュ成型で量産できる形状じゃないと無理なもんは無理ですから。
つまり、
ソフビとしてどう量産されるのかを理解した上で、最初の原型を設計しないといけない。
ここが普通の原型制作と「ソフビの原型制作」の大きな違いとなります。
ソフビ原型は、形を作って終わりではありません。最後にどうやって金型から抜くのか、材料が入る形状なのか、どこで分割するのか。その後のワックス転換・金型・成型まで成立する形へ落とし込みます。必要に応じて工場の選択や発注まで案内しています。
成型についてよくある質問(Q&A)
まとめ
長くなったのでまとめます。
- 一般的な国内ソフビでは、スラッシュ成型が代表的な量産方法。
- 液体状の塩ビを金型へ入れ、金型の内側に必要な厚みだけを固める。
- 中心の余分な材料を排出するため、完成品は中空になる。
- 最後は温かく柔らかい状態のソフビを、人の手で金型から引き抜く。
- 逆テーパーや極端に細い形状、抜けない隙間などは成型できない。
- 成型費は工場による差が大きく、作れば作るほど差額が積み重なる。
- 成型を理解した上で原型を設計しないと、最後の量産まで成立しない。
ソフビの成型は、一見すると、
金型へ材料を入れて、熱して、引っこ抜くだけ。
です。
でも、その「引っこ抜くだけ」を成立させるために、
原型制作の段階から分割や形状を考え、
ワックス転換を行い、
特注の金型を作り、
最後に職人さんが成型する。
全部つながっています。
ソフビ作りって、本当に分業なんですよ。
そして一番最初に形を決めるのが原型。ここで間違えると、その後の全部に影響します。
だから私は原型を作るだけでなく、その後のワックス転換や金型、成型までを見ながら進めています。
ソフビ化のご相談、承っています
原型制作から、その後のワックス転換・金型・成型まで。ソフビとして量産できる形状へ落とし込みながら造形します。三面図(ラフでOK)と作りたいもののイメージを添えてご連絡ください。
相談前に、これがあると話が早いです
- 三面図(正面・横・背面。ラフでもOK)
- 作りたいもののイメージや方向性
※営業メールが多く埋もれる事があるので、SNSのDMが確実です(フォローしてからどうぞ。フォロー外のDMは通知が来ません)。いつも詰まっているので2〜3ヶ月待ち、スケジュール的にお断りする事もありますがご了承ください。
ヨシダケンジのプロフィール
ヨシダケンジ
吉田健児
キャラクターデザイナー / 原型師
オリジナルキャラクター『ハムラ』と『ハムオ』でアートトイデビュー。ワンダーフェスティバル表紙にも起用。自身の作品だけでなく、原型師として「宇宙兄弟」や「少年アシベ」などの原型も担当。年間30体ほどの造形/原型制作を手がけています。