ワックス転換とは?ソフビ金型に必須の工程と費用を原型師が解説
ヨシダケンジ キャラクターデザイナー / 原型師
オリジナルキャラクター『ハムラ』と『ハムオ』でアートトイデビュー。ワンダーフェスティバル表紙にも起用され、原型師として「宇宙兄弟(講談社)」や「少年アシベ(双葉社)」など数々のソフビ/アートトイも担当。
更新日:2026.09.07
これはソフビフィギュアの作り方|原型制作の依頼は相談してねの補足記事です
ソフビができるまでの全工程・費用・工場の選び方は本編にまとめています。ここでは、その中でも一番「なにそれ?」となりやすい『ワックス転換』だけを掘り下げます。
こんにちは。
キャラクターデザイナー / 造形師 / 原型師をしているヨシダケンジ(吉田健児)です。
自身の作品制作と並行し、原型師としてメーカー案件や個人作家さんのソフビ / アートトイ原型など年間30体ほど担当しています。
ソフビを作る工程の説明をすると、
「金型が必要なのは分かる。成型(金型に材料流し込んで引っこ抜く)もイメージできる。
…ワックス転換?なにそれ?必要なの?」
これ、多くの人がそんな感想を持つんじゃないかな?と思います。
なんかイマイチわかりづらいですよね?一体何なのか。
ワックス転換?ワックスってなに?てか、なんで転換するの?みたいな。
例えば、30〜40万円かけて工房で作ってもらったワックス原型は、その後すぐ溶かされて無くなります。
え?と思いますよね。
でもこれ、どうしても必要な工程なんです。近道もありません。
ネットで調べても、この工程についてまとまった説明ってほとんど出てこないんですよね。
そもそもワックス転換ができる職人自体が少ないのです。どこに頼めばいいかすらわからないのでは?
そして、工房により価格差がエグい。罰ゲームみたいな工程です。
なので、実際にワックス転換工房に発注をする立場である
私のような原型師から見た『ワックス転換』を書いておきましょう。
ワックス転換ってなんじゃ?ってのが分かるようになるでしょう。
オリジナルソフビ『ハムラ』『ハムオ』。 自身でもキャラクターデザイン・原型制作からソフビ化まで行い、作品を展開。2026年デビュー。大きくなり過ぎたハムスターと飼い主の少年、絵本展開もします。 ハムラとハムオの作品を見る →
- ワックス転換とは、原型を「ロウ(ワックス)」で複製すること。
- ワックスは各社が独自ブレンド。配合を間違えると金型の作成時に失敗する。
- この工程で「嵌着(カンチャク)」と「湯口」も付けてもらう。ここも製品の質を左右する。
- ワックス原型は金型が仕上がる際に、溶かされて消える。
ワックス転換とは、簡単に言うと
まず結論から。
ワックス転換とは、私たちが作った原型を、ロウ(ワックス)で複製する作業です。
私が納品する原型の材質はレジンです。手で粘土をこねて作る人なら石粉粘土やポリパテだったりする。
それを工房でシリコン型をとり、そこに溶かしたワックスを流し込んで固める。
出来上がるのが「ワックス原型」。つまり原型のクローンですね。
レジンや粘土などで仕上げた原型を、わざわざわざわざわざわざわざわざ『ワックス』という素材として複製するのです。
はて、なんで??
その謎を、一緒に見ていきましょう。
ワックスとは、いわゆるロウソクのロウと同じ系統のものです。
たまに勘違いされるんですが、床にツヤ出すやつじゃないですよ。
学校の長期休みの前に塗る、あの臭いやつ。あれとは別物です。
で、当然こう思いますよね。
「なんでわざわざワックス(ロウ)で作り直すの?レジン(または粘土)のままじゃダメなの?」
ここが本題です。
なぜワックスじゃないとダメなのか
理由は、金型の作り方にあります。
ソフビの金型は「電鋳(でんちゅう)」という方法で作られます。電気鋳造の略ですね。
ちょっと理科の話が入りますが、そんなに難しくないので読んでみてください。
- ワックス原型の表面を、電気が通る状態にする ワックスはそのままだと電気を通しません。なので表面に導電処理をします。ここがまず一手間。
- 電解液に沈めて、通電する 金属イオンを含んだ液の中に原型を入れて、電極につないで電気を流します。
- 原型の表面に、金属が少しずつ積もっていく 液の中の金属イオンが原型の表面に析出していく。時間をかけて、しっかりした厚みの金属の殻ができます。
- 熱を加えて、中のワックスを溶かして流し出す これを「焼き出し」と呼びます。溶けたワックスが小さな穴から流れ出ていく。
- 中が空洞になる=金型の完成 金属の殻だけが残ります。これが『金型』。”金”属の”型”です。
もう分かりましたよね。
4番の「溶かして流し出す」ができないと、金型にならないんです。
レジンや粘土は熱で溶けません。
金属でコーティングした後、中身を取り出せない。
ただの「金属コーティングされた置物」が出来上がるだけ。何の意味もない。
熱で溶けてくれる素材、つまりワックスじゃないと成立しない。
この一点のために、わざわざ原型を作り直してもらっているわけです。
金型の作り方が電鋳である限り、絶対に必要。
この工程、数十年ずっと変わってないんですよ。近道が無い。
先日も海洋堂の専務さんが「なんとかショートカットできないか探ってる」っておっしゃってたけど、大企業をもってしてもいまだに無理なんです。ってか今後も無理です。
ワックスは「ただのロウ」じゃない
ここ、あまり語られないんですが面白い話です。
ソフビ用のワックスって、工房ごとに独自のブレンドをしています。
シルバーアクセサリーなんかで使われる「インジェクションワックス」という既製品があるんですが、実はこれ単体で使うと失敗する確率がかなり高いらしいんですね。
理由は粘度。
粘りが強すぎると、さっきの「焼き出し」の時にワックスがちゃんと流れきってくれない。
金型の先端部分に残ってしまったり、焦げたりする。
各工房で配合が違います。配合が違うと『収縮率』というものも変わってきます。
『収縮率』を理解するための豆知識として、
ソフビって私のような原型師が原型を作りますよね?
その原型がワックス転換工房へ渡り、ワックス原型として複製され、その複製されたワックス原型が金型工場に渡り、金型が作られ、その金型が成型工場へ渡り、塩ビを金型に流し込み、固めて、引っこ抜かれてソフビが量産される。
このような旅に出るわけです。
原型制作
レジン・粘土など
ワックス転換
ロウで複製
金型製作
電鋳で金属の型に
成型(量産)
塩ビを流して量産
この旅の過程で縮みます。原型を20cmで作ってたとしたら、19cmくらいになる。
この場合5%くらい縮んだことになりますよね?これが『収縮率』です。
この収縮率は、工房により差がでます。
ある工房なら「8%くらいの収縮率を想定しておいてください。」と言ってくる。
別の工房なら「ウチは5%くらいの想定でお願いします。」と言ってくる。
この差はなんなのか?
その差を生み出す大きな要素が、上で書いた「工房ごとに独自のブレンド」ってやつです。
ワックスに求められること
- 流れやすさ 焼き出しで残らずスッと流れ出てくれること。ここが最重要。
- 造形しやすさ カンチャクを削ったり修正したりするので、適度な硬さも必要。
- ツヤ 表面の状態がそのまま金型に転写されるので。
この3つを両立させるために、ワックス転換を仕事にする工房たちは流動性の高いワックス、硬くなるワックス、ツヤを出すワックスなどを混ぜて配合していく。
しかもこの配合、0.1g変えただけで手触りが変わるというレベルの世界だそうです。
当然、各社の配合は企業秘密。
配合を間違えると、金型工場の電鋳槽そのものを壊してしまうことがあるらしいんだよ。
自分の作品がダメになるだけじゃなくて、工場の設備に損害を与えかねない。
だからここは大人しくプロにお願いするところ。餅は餅屋です。
てか、職人レベルじゃないと仕上がりがダメダメになるよ。表面にプツプツ空気の入ったソフビ作品になってもいいならチャレンジしてもいいけど。
そしてもうひとつ。
焼き出し(金型からワックスを流し出す工程)でワックスが残ってしまうと、その部分にメッキがかからない。
結果、金型の表面が荒れて、成型したソフビの艶が無くなる。ガッサガサになる。
地味な話に聞こえますが、最終的な製品の質感に直結してるんですよね。
ここで「カンチャク」も付けてもらっている
ワックス転換の説明で一番見落とされるのが、これ。
この工程は、単なる複製作業じゃありません。
ソフビを分解したことがある人なら分かると思うんですが、腕や首の付け根にラッパ状の突起が付いてますよね?
これを「嵌着(カンチャク)」、あるいは「湯口(ゆぐち)」と呼びます。
これもワックスの段階で付けてもらいます。
で、こいつがめちゃくちゃ働き者なんですよ。
カンチャクの2つの役割
- パーツ同士を繋ぐジョイント オスとメスがあって、はめ込むことでパーツが結合する。しかも動く。正円の場合ね。形状によっては正円が無理なこともある。
- 材料を流し込むロート(注入口) 金型に材料を注ぐ入口でもある。だから「湯口」と呼ばれる。
一人二役。よくできてます。
そしてここの出来が、製品の質をかなり左右します。
ゆるいとパーツがポロポロ落ちる。飾りにくい。
きつすぎるとポーズを変えづらいし、遊んでるうちに擦り切れてくる。
このさじ加減が本当に難しい。
さらに面白いのが、わざと角度を付けて曲げていたりすること。
これ、意味があるんです。
湯口から材料を引っ張った時に抜けやすい角度だったり、気泡が入らないようにするためだったり。力学的な理由がちゃんとある。
で、この角度の付け方が完全に経験則の世界。何度もやって身体で覚えるしかない。
- ソフビを動かす時、胴体を持って手足を動かす。つまり力が加わるのは手足の側。
- なので持つ方(胴体)をメス、動かす方(手足)をオスにすると強度が出る、という考え方がある。
- よくできたソフビは、だいたいこの法則で組まれています。分解する機会があったら確認してみてください。
あと、成型の方式によっても最適なカンチャクは変わります。形状によって判断して、それ用のジョイントを作る。このへんも工場と相談しながら決めていくところですね。
そして、ワックス原型は溶かされて消える
ここが個人的に一番グッとくる部分なので、あらためて。
さっきの電鋳の工程を思い出してください。
金型を作るために、中のワックスは溶かして流し出されます。
つまり。
20〜40万円払って、職人さんが数ヶ月かけて仕上げてくれたワックス原型は、金型ができた瞬間に跡形もなく無くなります。
手元には何も残りません。
初めて聞くと「え、勿体なくない?」って思いますよね。私も最初そう思いました。
でも、そのために作られたものなんですよねワックス原型って。
消えることが前提の原型。
最初から使い捨てられる運命として生まれてきてるんですよね。
なんというか、儚い。
まあ実際には、そのワックスが金型になって、その金型から何百体もソフビが生まれていくわけなので、消えたわけじゃなくて形を変えて残ってるとも言えるんですが。
ソフビを持ってる人は、たまに思い出してあげてください。
その子の元になったワックス原型は、金型になるために溶けて消えていったんだなと。
溶かされて消えたワックス原型から生まれるのが、この金型です。さらにその次、金型からソフビが出てくる工程はソフビの成型とは?スラッシュ成型・量産の仕組みと費用で書いています。
費用と、事前に見積もりが出ない理由
よく聞かれるので書いておきます。ただしあくまで目安です。
- 相場:20〜40万円くらい ※パーツ数と大きさでかなり変動します。
- 一般的には1パーツ7〜8万円と言われることが多い ※ただし、もっと安くやってくれる工房もあります。私はそういうところに流すことがほとんど。
- 工房によって10万円以上の差が出る ※大きかったりパーツ数が多かったりすると、差はさらに広がります。
そして重要なのが、事前に正確な見積もりは出ません。
ワックス転換の工房は「原型を見ないと見積もり出せない」と言います。
金型工場は「ワックス原型を見ないと出せない」と言う。
まあ当然なんですよね。
私だって「ソフビ作りたいです」とだけ言われても「…どんなデザインですか?」となる。デザイン案を見ないと判断しようがない。
なので私たち作家も、毎回いくらになるか提出するまで正確には分かりません。
経験があるのでザックリした予想はできますけどね。最近じわじわ価格も上がってる印象です。インフレってやつですね。
Order
ワックス転換の工房選びから、発注まで案内します
原型制作をご依頼いただいた方には、どの工房に出すべきかを、判断の理由とともにお伝えしています。
ちなみに「ワックス転換しない」ルートもある
補足として書いておきます。
ここまで「原型を作る → ワックスに転換する」という流れを説明してきましたが、最初からワックスを削って原型を作ってしまう作家さんもいます。
ワックス原型師と呼ばれる方々ですね。
お〜なるほどね!!
と思いません?
いちいちレジンや粘土で原型を作ってから、それを型とってワックスで複製するくらいなら、
最初からワックスで原型を作ってしまえ!的なノリです。
そうやったらワックス転換にかかる費用が抑えられるではないか!天才だ!
さて….果たしてそんなウマイ話があるか?
あなたは何らかのキャラクターの立体作品を作る際に、素材は何を使いますか?
粘土の人が多いよね。定番です、好き勝手造形できますしね。
私はデジタルな粘土(最終的にはレジンとして出力)を使っています。現代の定番です。自由自在です。
そんな定番の素材じゃなくってさ、木材を使って造形してくれない?
え?木材じゃ造形できない?なんでよ、彫刻刀で彫ったりヤスリで削りまくったりしたらなんとかなるでしょ。木彫り作品とかあるじゃん。やってみなよ。
さて、あなたは木材を素材として造形できるでしょうか?
…できるわけないよね?木彫り作品は世の中にあるけれども、なんというか木彫り感丸出しでしょ?
とてもじゃないが木を彫っていって好き勝手造形できるわけがない。粘土の方がはるかに良い。
「ワックス(ロウ)で最初から原型を作るってのは同じようなこと」です。
造形するための素材として全く向いてない。まあそりゃできる人もいるでしょう。木彫り作家みたいに。
だけど、そこまでしてわざわざ造形に全く向いてない素材を使って作品を作る必要あるか?それって正しいのか?
ってとこに行き着きます。
自分でワックス転換までやってコストカットする、というケースもあります。
ただし前述の通り、ワックスのブレンドを誤ると電鋳槽を壊すリスクがある。さらにそんなことは知っちゃこっちゃないってメンタルで突っ込むにしても、技術や道具や経験値なけりゃ到底無理ですよ。仕上がりがガビガビになる。
以上のように、メーカー含めみんながワックス転換を工房へお願いし、『ワックス転換』という工程を挟まざるを得ないのには理由があるのです。
避けれるなら、メーカーたちも私も避けますよそりゃ。みんな無駄金なんて払いたく無いですからね。でも無理なのです。
依頼する側として、知っておきたいこと
実務的な話を最後に。
ワックス転換で押さえておきたい3点
- 工房選びで金額がかなり変わる 同じものを作っても、工房によって10万円以上の差が出ます。技術も納期もバラバラ。しかも工房がかなり少ない。
- 安さより技術を優先すべき案件もある ソフビの制約ギリギリを狙った造形の場合は、価格で選ぶと失敗します。ここは私からアドバイスします。
- カンチャクの相談は早めに 形状によってジョイントの作り方が変わります。造形の段階から工房と打ち合わせが必要な場合が多い。
私の場合、設備投資が終わるまでは工場の案内をしています。
「ここは技術最強だけどちょい高め、納期遅い」
「ここは技術普通だけどかなり安い、納期早い」
「ここは技術普通で価格も高くて納期も遅いから、メリット無いかな」
みたいな感じで、選択肢とアドバイスを一緒に出して、どこにするかは選んでもらう。
発注もこちらからかけます。
別に特殊なルートを持ってるわけじゃなくて、プロとして仕事してれば自然に把握できることです。
ソフビ原型は、形を作って終わりではありません。カンチャクを付けるスペースや収縮、その後の金型・成型まで考えながら造形します。原型制作をご依頼いただいた場合は、必要に応じてワックス転換工房の選択や金型工場の選択、発注まで案内しています。
ワックス転換についてよくある質問(Q&A)
工場が別々なだけで(金型工場がワックス転換も受け付けてる場合があるが、外注してるだけです)。
全然違うわけですモノによって。そしてそもそも工場ごとに価格差がエグい。
私が原型制作を頼まれた際は、安くやってくれる工場にだいたい流します。おおよそ価格も予想はできる。
ワックス転換時にも少し縮み、金型製作でも少し縮み、成型時にもちょっぴり縮む。
それぞれちょっとずつ縮んでソフビが完成するんです。原型より小さくなる。つまり、あらかじめ大きめにしておかないといけないってことだね。
まとめ
長くなったのでまとめます。
- ワックス転換とは、原型をロウで複製する工程。
- 金型は電鋳で作るため、熱で溶けて出てくれる素材=ワックスでないと成立しない。
- ワックスは各社独自のブレンド。流れやすさが命で、配合ミスは電鋳槽の破損にも繋がる。
- この工程でカンチャク(嵌着)と湯口も付けてもらう。製品の質を左右する重要作業。
- ワックス原型は金型になった時点で溶かされて消える。
- 費用は20〜40万円前後。工房選びで大きく変わる。事前の正確な見積もりは出ない。
- 省略や近道はできない。
地味だし、溶かされて何も残らないという儚い工程なのですが、避けられない工程です。
ソフビって、こういう地味で人力な工程の積み重ねでできてるんですよね。
数十年変わらない、思いっきりアナログな世界です。
ソフビ化のご相談、承っています
原型制作から、その後の工場案内まで。三面図(ラフでOK)と作りたいもののイメージを添えてご連絡ください。
相談前に、これがあると話が早いです
- 三面図(正面・横・背面。ラフでもOK)
- 作りたいもののイメージや方向性
※営業メールが多く埋もれる事があるので、SNSのDMが確実です(フォローしてからどうぞ。フォロー外のDMは通知が来ません)。いつも詰まっているので2〜3ヶ月待ち、スケジュール的にお断りする事もありますがご了承ください。
ヨシダケンジのプロフィール
ヨシダケンジ
吉田健児
キャラクターデザイナー / 原型師
オリジナルキャラクター『ハムラ』と『ハムオ』でアートトイデビュー。ワンダーフェスティバル表紙にも起用。自身の作品だけでなく、原型師として「宇宙兄弟」や「少年アシベ」などの原型も担当。年間30体ほどの造形/原型制作を手がけています。